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コンテンツ制作

取材音声から記事化で品質が落ちる3つの構造要因

取材の場では確かに良い話を聞けた。録音を聞き返しても、面白い発言が残っている。なのに記事にすると、どこか平板で、取材相手の魅力が伝わらない。

この現象は編集者のスキル不足で片づけられがちだが、実際には工程の設計に原因がある。文字起こしから記事化までのプロセスに、品質を構造的に下げる要因が3つ埋まっている。

現象:取材の熱量が記事に残らない

BtoBメディアの編集現場で繰り返される光景がある。取材後に「今日は良い話が聞けた」と思い、文字起こしを読み返すと確かに良い発言が並んでいる。ところが初稿を組み上げると、読み応えのない記事になる。

結果として「もっと深掘りすればよかった」「取材の質が足りなかった」と取材側に原因が帰される。しかし録音を聞き直せば素材は十分あることが多い。問題は素材の質ではなく、素材を記事に変換する工程にある。

要因1:話し言葉と書き言葉は情報の並び方が違う

取材音声を文字に起こすと、話し言葉の構造がそのまま残る。話し言葉は時系列で進む。「最初にAをやって、次にBが起きて、それでCに気づいた」という順番だ。

一方、読まれる記事は論理構造で組み立てられている。「Cという結論がある。なぜならBが起きたからで、その前提にはAがあった」という逆順だ。

ここに1層目の原因がある。文字起こしを「編集」しようとすると、話し言葉の時系列構造を維持したまま言葉を整えることになる。語尾を直し、重複を削り、接続詞を足す。しかし情報の並び順が時系列のままなので、読者は結論にたどり着くまで読み続けなければならない。

2層目はさらに根が深い。話し言葉には「文脈の共有」が前提として組み込まれている。取材の場では、質問者と回答者が同じ文脈を共有している。だから「あれがうまくいった」「そこが大変だった」という指示語で通じる。ところが記事の読者はその文脈を持っていない。文字起こしから指示語を消して具体語に置き換える作業は、単なる校正ではなく、情報の再構築だ。

つまり、文字起こしの「編集」で記事を作ろうとすること自体が、工程の設計ミスだ。必要なのは編集ではなく、素材からの再構成だ。

要因2:取材者と執筆者が分かれると判断基準が消える

BtoBメディアの制作体制では、取材する人と記事を書く人が分かれていることが多い。社内の担当者が取材に同席し、外部ライターが記事にする。あるいは編集者が取材し、別の編集者が構成する。

この分業には合理性がある。取材には業界知識が必要で、執筆には文章力が必要だからだ。しかし、分業と引き換えに失われるものがある。「何を残し、何を捨てるか」の判断基準だ。

取材者は取材の場で、相手の表情や声のトーンから「ここが本音だ」「ここは建前だ」を感じ取っている。どの発言に力が入っていたか、どの話題で相手が前のめりになったかを体感している。この情報は録音には残らない。

さらに深い層がある。取材者は「なぜこの人に取材したのか」という企画意図を持っている。その意図に照らして、どの発言が記事の核になるかを判断できる。しかし企画意図は文字起こしのファイルには添付されない。執筆者に渡されるのは、全発言が等価に並んだテキストだ。

結果として執筆者は、取材者が「ここが核だ」と感じた発言と、場をつなぐために出た雑談を、同じ重みで扱うことになる。記事が平板になるのは当然だ。

要因3:「全部起こしてから削る」が品質の上限を下げている

多くの制作現場では、まず取材音声を全文文字起こしし、そこから不要な部分を削って記事にする。この「全部起こす→削る」という工程は、一見すると網羅的で安全に見える。

しかしこの工程設計には、品質の上限を下げる構造がある。

1層目の問題は認知負荷だ。60分の取材を全文起こしすると、1万5千字から2万字になる。この量のテキストから「何を残すか」を判断するには、全体を何度も読み返す必要がある。実際には時間的な制約から、冒頭から順に読んで「使えそうな箇所」をピックアップする作業になる。結果として、序盤の発言が多く採用され、終盤に出た本音が落ちる。

2層目はさらに構造的だ。「削る」という操作は、元のテキストの枠組みの中でしか動けない。全文起こしを出発点にすると、話者の語り方・話題の順番・発言の粒度が固定される。編集者は「この発言を使うか使わないか」を判断することはできるが、「この人が本当に言いたかったことを、この人が使わなかった言葉で表現する」ことは、削る操作ではできない。

記事として最も価値があるのは、取材相手が言葉にできなかった洞察を、読者に伝わる形で再構成したものだ。それは「全文から削る」工程からは生まれない。

どう考えるべきか:工程を「素材→設計→構成」に変える

3つの要因に共通するのは、文字起こしを「記事の下書き」として扱っている点だ。文字起こしは下書きではない。素材だ。

素材から記事を作る工程は、3段階で考える。

第1段階:素材の分解

文字起こしから、発言の単位ごとに「事実」「意見」「感情」「エピソード」を分類する。時系列は捨てる。この段階では記事の構成を考えない。

第2段階:設計

読者が知りたい順番で、素材を並べ直す。記事の主張を決め、その主張を支える素材を選ぶ。使わない素材が半分以上あるのが正常だ。取材者から「企画意図」と「核になる発言」を受け取り、設計の軸にする。

第3段階:構成

設計に従って文章を書く。このとき初めて「書く」作業に入る。素材の言葉をそのまま使うのではなく、読者の文脈に合わせて再構成する。

この3段階を踏むと、「文字起こしを編集して記事にする」工程よりも確実に時間がかかる。しかし、平板な記事を出して反応がなく、次の取材先の獲得に苦労するコストと比べれば、工程の再設計は投資として合理的だ。

手を動かすなら

ここまでは「なぜ品質が落ちるか」の構造を整理した。では実際に文字起こしから記事を組み立てるとき、ChatGPTをどう使えば工程を回せるのか。具体的な手順とプロンプトは、以下の記事で解説している。

文字起こしから記事にする編集手順|ChatGPT活用法

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新居 祐介

新居 祐介 Yusuke Arai

opus合同会社 代表社員

博報堂アイ・スタジオで大手ナショナルクライアントのWebサイト制作をプロデュースし、その後サイバーエージェントにてAmebaブログを始めとするAmeba関連サービスの立ち上げに参画、開発プロジェクトをリード。2006年に独立しWebサイト開発事業や自社メディア事業を主とする会社を設立・経営するも、8期目にトラブルで廃業。その後アマナで執行役員及びアマナイメージズ社長就任。2024年9月にopus合同会社を設立。

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