コミュニティマーケティング 更新: 2026.05.16

ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?意味・代表ツール・日本で浸透しづらい理由

ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?意味・代表ツール・日本でうまくいかない理由

ABM(Account-Based Marketing、アカウントベースドマーケティング)とは、特定のターゲット企業(アカウント)を絞り込み、その企業の意思決定者に対して個別最適化されたマーケティング・営業活動を集中投下するBtoB戦略です。米国では2010年代後半から大手SaaSを中心に普及し、6sense、Demandbase等のプラットフォームが市場を牽引してきました。

一方で、日本市場では「ABM」が10年以上前から語られながら、本格定着には至っていません。ツール導入は進んでも、運用が回らずに棚上げになる事例が多く、業界では「ABMは日本で死んだ」とまで言われる状況があります。本記事では、ABMの定義、代表ツール、隣接概念との違い、そして日本でABMが定着しなかった構造的理由を整理します。


ABMの定義

ABM(Account-Based Marketing)は、Marketo(Adobe)/ Engagio共同創業者のJon Millerが2010年代に提唱・普及させた概念で、従来のリードベースのマーケティング(=広く網を張って数を集める)とは逆方向のアプローチを取ります。

Lead-Based vs Account-Based

従来型(Lead-Based) ABM(Account-Based)
起点 個人リード 企業(アカウント)
対象規模 数千〜数万件 数十〜数百社
アプローチ 一斉メール、広範囲広告 個別パーソナライズ
営業との連携 リード渡し型 営業 + マーケ統合運用
評価指標 リード数、CPL アカウント獲得、エンゲージメント率
適合領域 SMB向け大量取引 エンタープライズ高単価取引

ABMは「Fewer accounts, deeper engagement(より少ないアカウントに、より深いエンゲージメント)」という哲学に基づき、ターゲット企業のキーパーソン全員に対して、各人の役職・関心・検討段階に合わせたコンテンツとアプローチを設計します。


ABMの3タイプ(ITSMA分類)

ABMは投入工数の深さによって3タイプに分けられます。

タイプ 対象数 アプローチ 適合領域
Strategic ABM(One-to-One) 1〜10社 完全個別。専任チームが顧客固有のキャンペーンを設計 戦略的大口顧客、$1M+案件
ABM Lite(One-to-Few) 10〜100社 業界・課題別にクラスタリングして部分パーソナライズ 中堅エンタープライズ
Programmatic ABM(One-to-Many) 100〜1,000社 テクノロジーによる自動化、IPベース広告等 スケール重視

ABMとMA / RevOpsの違い

ABMは独立した概念ではなく、隣接領域と組み合わせて運用されます。

ABM MA(マーケティングオートメーション) RevOps
主体 戦略・運用の設計思想 ツール・実装基盤 組織・プロセスの設計思想
スコープ マーケ + 営業の戦略統合 メール配信、リードスコアリング、ナーチャ自動化 マーケ + 営業 + CSの収益オペレーション統合
代表 6sense、Demandbase、FORCAS Marketo、HubSpot、Pardot Gong、Salesloft、Clari
関係 MAの上位戦略 ABMの実装基盤として機能 ABMを内包する更に広い枠組み

簡潔に言うと、MAは「道具」、ABMは「戦略」、RevOpsは「組織」です。MAだけ導入してもABM戦略は実装されず、ABM戦略だけ立ててもRevOps組織が無ければ機能しません。


メリット・デメリット

メリット デメリット
エンタープライズ大型受注の確度を高める 立ち上げに6〜12ヶ月かかる
マーケと営業の対立を構造的に解消 ターゲット選定を誤るとリソースが無駄になる
顧客一社あたりのLTVを最大化 数百〜数千社の母数では効果が薄い
競合との差別化を意思決定者に直接届けられる 運用者(ABM Operator)の人材市場がほぼ未成熟
データ駆動型の意思決定が可能 ツール費用が高額(年数百万〜数千万)

代表的なツール・サービス

グローバル

6sense
ABMプラットフォームの代表格。Bombora集約データ + G2/TrustRadiusレビューシグナル + 自社のde-anonymization技術を統合した「Signalverse」を提供。価格帯は年$10K〜$140K(中央値$58K)。Forrester Wave Leader(2025 Q1)。

Demandbase
6senseの主要競合。bidstream-sourced intent + Bombora連携 + 広告配信内蔵。Basic $18K-$24K / Professional $45K-$65K / Enterprise $70K-$300K+。広告統合に強み。

Engagio(Demandbaseが買収)
Jon Miller創業のABM専業プレイヤー。2020年にDemandbaseが買収。ABMの体系化と市場教育に大きく貢献。

Terminus
中堅市場向けABMプラットフォーム。広告 + Web personalization + シグナル統合。

RollWorks(NextRoll)
SMB〜中堅向けABM広告 + マーケ統合。

国内

FORCAS(uSonar)
日本の代表的なABM企業データベース。150万社以上の企業情報を正規化し、ターゲット企業の絞り込み・分析に強み。HubSpot/Salesforce連携。

Sansan
名刺管理から派生したABM領域。名刺起点のリード × 企業データベース × Web行動データの統合。

ListFinder(Innovation X Solutions)
中堅向けABM/MA統合ツール。アクセス解析と企業特定に強み。

SATORI
匿名アクセス解析が特徴の国産MA。ABMの簡易実装基盤として活用される。


なぜ日本でABMは定着しなかったか

ここからが本題です。米国では大型受注の標準アプローチとなったABMが、日本ではなぜ広く定着しなかったのか。構造的な要因が4つあります。

① 運用者(ABM Operator)の不在

ABMは「ターゲット選定 → ペルソナ設計 → コンテンツ作成 → チャネル設計 → 営業連携 → 効果測定」を一貫して回せるオペレーターが必要です。米国にはABM専業のマーケターが多数存在しますが、日本ではABMをフル運用できる人材が圧倒的に不足しています。ITSMAやSiriusDecisionsの認定オペレーターのような体系も、日本では整備されていません。

② 営業組織との文化的ミスマッチ

ABMはマーケティング部門と営業部門の統合運用が前提ですが、日本BtoB企業の多くで両部門は分断されており、相互の役割分担・KPI設計・データ共有が機能していません。「マーケが渡したリードを営業が拾わない」という古典的な対立構造が、ABM導入の足を引っ張ります。

③ ツール先行で活用されない

「6senseを入れたが半年で活用が止まった」「FORCASを契約したがリスト出力ツールにしかなっていない」——こうしたケースが頻発しています。ツールの導入は意思決定者が決められても、運用設計はマーケ現場で行うしかなく、その人材が不在のまま導入が進むパターンです。

④ 啓蒙の主役が不在

米国にはJon Miller(Marketo→Engagio)のような「カテゴリの伝道師」が存在し、書籍・登壇・コミュニティを通じて市場教育を主導しました。日本ではABMの体系を語れる立場の人物が少なく、ベンダー個別の発信に留まっているため、業界横断の共通言語が育っていません

これらの結果、「ABMは概念は良いが、自社では回せない」というのが多くの日本BtoB企業の本音となり、語られながら実装が進まない状態が続いてきました。


日本でのABM活用パターン

完全なABM運用が困難な日本でも、部分的に成果を出している活用パターンがあります。

パターン1:FORCASでターゲットリスト化 + 既存MAでナーチャ
ABMをツール統合で実装するのではなく、企業データベース(FORCAS)でターゲット絞り込み、既存のMA(HubSpot/Marketo等)でナーチャシーケンスを回す軽量実装。

パターン2:展示会起点のSansan-led ABM
展示会で取得した名刺をSansanに集約し、その後のWeb行動・メール反応を追跡してアカウント単位で評価する日本特有のパターン。

パターン3:インサイドセールス × MAの軽量ABM
MA + SDR部隊でターゲット企業のキーパーソンを個別フォローする運用。完全なABMではないが、要素を取り入れた中間形。

パターン4:コンテンツマーケ × ABMの統合
ターゲット企業向けの個別コンテンツ・ホワイトペーパー・カスタマイズドLPで意思決定者の関心を引く運用。コンテンツ生産能力が前提条件。


これからのトレンド

Intent-driven ABMへの進化

従来のABMは「ターゲットリストを作って攻める」という発想が中心でしたが、近年はインテントデータで購買検討に入った企業を検知してから絞り込む「Intent-driven ABM」へと進化しています。Sales Markerが国内で広めた「インテントセールス」も、この潮流の一部です。詳細はインテントセールスとは?を参照。

1st-party ABMの台頭

3rd-party Cookie廃止と規制強化により、自社の1st-partyデータを起点とするABMへのシフトが進んでいます。詳細は1st-partyデータとは?を参照。

コンテンツ自動化との統合

LLMの普及により、ターゲット企業ごとのカスタマイズコンテンツ・パーソナライズメール・カスタムLPの自動生成が現実的になりました。ABMの最大のボトルネックだった「個別コンテンツ生産の工数」が解消されつつあります。

ABMからRevOpsへの拡張

マーケ + 営業統合のABMから、CS(カスタマーサクセス)まで含めた収益オペレーション全体(RevOps)への拡張が進んでいます。Gong、Clari、Salesloft等の収益分析プラットフォームが市場を牽引。


関連用語


opusの見解:日本のABMが発展しづらい4要因に対応するアーキテクチャ

opus LLCは、日本でABMが定着しなかった4要因(運用者不在/営業ミスマッチ/ツール先行/啓蒙不在)を、構造的に解く設計を取っています。

具体的には、(1) 戦略 + 運用 + ツールをセット提供することで「運用者の不在」をカバーし、(2) マーケ部門で完結する設計(MQLまで担当)で「営業組織との文化的ミスマッチ」を回避し、(3) ツール単体販売しないことで「ツール先行」を防ぎ、(4) 代表者がカテゴリの伝道師として書籍・登壇・連載を行うことで「啓蒙の主役」のポジションを取りに行く——という設計です。

ABMという既存カテゴリを否定するわけではなく、「日本BtoB中堅向けに、運用負荷を下げ、上流で需要を創るアプローチ」を提案するものとして、ABMの隣接領域に位置付けています。


まとめ

ABMは、エンタープライズ向け大型受注を狙うBtoB戦略として有力な手法です。一方で、日本市場では運用者・組織・文化の3つの不在により定着が進んできませんでした。

これからのABMは、インテントデータ・1st-partyデータ・生成AIによるコンテンツ自動化との統合により、運用負荷を下げる方向に進化していくと見られます。日本BtoB企業がABMをどう活かすかは、ツール選定よりも組織設計とコンテンツ生産能力にかかっている、というのが現時点の実態です。

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新居 祐介

新居 祐介 Yusuke Arai

opus合同会社 代表社員

博報堂アイ・スタジオで大手ナショナルクライアントのWebサイト制作をプロデュースし、その後サイバーエージェントにてAmebaブログを始めとするAmeba関連サービスの立ち上げに参画、開発プロジェクトをリード。2006年に独立しWebサイト開発事業や自社メディア事業を主とする会社を設立・経営するも、8期目にトラブルで廃業。その後アマナで執行役員及びアマナイメージズ社長就任。2024年9月にopus合同会社を設立。

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